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労働契約時の「身元保証書」について

梅が終わり、桜の蕾がちらほらと見かけられるようになりました。神戸と言えば、「いかなご」が春の風物詩ですが、ここ数年の不漁で、お醤油とザラメの香りのしない春が続いております。一説によると、瀬戸内海が綺麗になり過ぎて、プランクトンが減っていることが理由だそうで、今、海底の泥を掘り起こして、豊かな土壌づくりをしているそうです。豊漁の春が待ち遠しいかぎりです。
さて、春は入社のシーズンでもあります。今回は、入社時に会社から提出を求められることのある「身元保証書」について、ご説明したいと思います。

1.「身元保証書」とは

すべての会社が提出を求めているものでもないため、聞き慣れない方も多いかもしれません。その言葉の響きから、新入社員の方はもちろん、保証人を頼まれた方も、不安や疑問を持たれることが多い書類です。まず、「身元保証書」は、法律で提出を義務付けられているものでもなく、また、提出を禁止されているものでもありません。入社時に提出してもらう書類ですが、特に銀行等の金融機関で用いられるケースが多いようです。そして、「身元保証書」は、新入社員本人ではなく、「身元保証人」と「会社」の契約となります。その目的を絞ると、主に下記2点です。

2.「身元保証書」の目的って何?

●損害賠償 
雇い入れた社員の重大な過失や不祥事によって会社が損害を受けてしまった場合、社員本人だけでなく身元保証人も一緒に賠償させるという目的があります。
例えば、本人が会社のお金を横領してしまったケースでは、本人が賠償できない場合、身元保証人が賠償しなければいけません。ちなみに、身元保証人については、両親や配偶者がなるケースが一般的です。成人していて収入があれば、兄弟や親戚、知人でも良いとしている会社もありますが、会社によって定めは異なりますので、分からない場合や、身元保証人を立てることが難しい場合は、まずは会社に確認されることをおすすめいたします。会社の人事ご担当の方は、問合せがあったときのために、身元保証人の条件について、就業規則をあらかじめ確認しておかれるのが良いかと思います。万が一、就業規則に明記されていない場合は、整備が必要ですので、ぜひ、ご相談ください。

●人物に対しての保証
人物に対しての保証を目的として重視する会社も多くあり、極度保証額の記載なしの、単なる人物保証のみを目的とした「確認書」の提出を求める会社もあります。第三者に「身元保証書」や「確認書」を提出してもらうことで、入社者の素性や経歴に問題がないか確認する意味を込めています。また、例えば、本人がうつ病等の精神疾患などにかかり、出社できない状態が続いた場合など、本人の今後について、身元保証人が話し合いのサポートになる役割も期待されています。

なるほど、目的は分かったけれど、やっぱり損害賠償しなければいけないのなら、身元保証人なんて簡単に引き受けてもらえる気がしないし、そもそも法律で提出義務がないのなら、提出しなくても良いのでは?と思われた方もいらっしゃるかもしれません。人事部の方にとっても、説明が難しいと思われるポイントかと思います。次では、「身元保証書」の法的効果についてご説明したいと思います。


3.「身元証書」の法的効果について

●極度額の定めのない契約は無効
2020年4月の民法改正により、身元保証人が責任を負う金額の上限額の定めがない契約は無効となりました(改正民法465条の2)。

●保証期間は原則3年間
書面に期間を記載していない場合は原則3年間、保証期間を定める場合は、最長で5年間です。また、自動更新は無効です(身元保証法第1条、第2条)。

●使用者の通知義務
身元保証書を交わした後、会社は、次のような場合には遅滞なく、身元保証人に通知しなければならないとされています(身元保証法第3条)。

(1)労働者に業務上不適任または不誠実な行為があり、身元保証人の責任となるような問題を引き起こすおそれがあることを知ったとき。

(2)使用者が労働者の職務や勤務地を変更したために身元保証人の責任が重くなる可能性が生じたり、身元保証人が労働者を監督することが難しくなるとき。

本人が何かしでかしそうですよ、だとか、遠方に転勤するので監督が難しい状態になりますよ、という場合、会社は身元保証人に通知する義務があります。それを教えてもらった身元保証人は何ができるのか?というのが、次の(3)です。

(3)身元保証人は上記の通知を受けた場合、または自らその事実を知った場合には、将来に向けて契約の解除をすることができる。

損害賠償請求するかもしれないと予告してもらえるうえに、身元保証契約の解除までできるわけですから、身元保証契約を結ぶ意味があるのだろうか、という気もしなくもありません。しかしながら、一方では、身元保証契約を結ぶことで、「不正行為等の抑止」の効果を期待できる他、前述したように、人物保証としてのメリットもあります。なお、会社のルールとして、身元保証書の提出を採用条件としているような場合は、「就業規則」に明記しておくことが必要となります。たとえば、就業規則には、「身元保証書を提出する必要がある」という文言があるだけでなく、「提出しない場合、採用を拒否する場合がある」と明記することが必要となります。やはり「就業規則」の整備は絶対です!

以上を踏まえたうえで、入社者に説明する際には、身元保証書の「目的」を丁寧に説明しましょう。
損害賠償といった目的だけでなく、過失や不始末を防止する意味合いもあることや、人物保証で本人に不測の事態が起こったときの備えという目的について説明すると相手にも理解してもらいやすい筈です。
入社者が安心して入社日を迎えられるよう、会社は説明するように心掛けましょう。

(室)
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